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感情の老化は老いを加速させる

私は常々、老いの中でいちばん注意しなければいけないのは感情の老化だと思っています。

年をとって体力や筋力が衰えていくのは誰でも気がつきますが、感情の老化は自分でも気がつかないことが多く、意欲や好奇心もなくなってきて、老いを加速させることが多いからです。

自由に気がつかなくなるというのも、感情の老化で説明できます。


好きなことをやっていいし、やりたいことをやっていいのに自分で思いつきません。心の底から笑ったり楽しんだりといった、溌溂とした感情が生まれてこなくなれば、家に閉じこもってぼんやりとテレビを見て過ごしたり、周囲の人の会話を聞いているだけになってしまいます。


感情の老化を止めるいちばんの方法が「移動」
では、感情を刺激するいちばん簡単な方法は何だと思いますか?

ありきたりの毎日、変化のない暮らしから抜け出すことで、誰でもすぐにできるのが移動になります。簡単に言えば外出です。


出かけるまでは「億劫だ」とか「疲れるだけだ」とためらったとしても、とにかく自分の家を出て外に出かけるだけで感情は刺激されます。

べつに、長い旅行や遠くに出かけることではありません。

「たまには外で食べるか」と町に出て、久しぶりのレストランや和食の店で食事するだけでもいいし、お酒が好きな人なら居酒屋やバーで軽く飲んでみるのもいいでしょう。

たったその程度のことでも、「やっぱり美味しいな」とか「気持ちが伸び伸びしたな」と思えばうれしくなります。

もちろん、1泊でも2泊でも自宅を離れて旅に出るのもいいでしょう。車でも新幹線や飛行機でも、移動するだけで解放感が生まれます。

70歳を過ぎれば、オフシーズンの平日でも拘束される仕事も約束もないのですから、車中で風景を眺めているだけで自由を実感できます。懐かしい友人を訪ねてみるのもいいし、若い頃に好きだった町を久しぶりに訪ねてみるのもいいでしょう。

すると、いろいろな思い出が蘇ります。懐かしい友人相手なら思い出話が次から次に出てきます。感情が大いに刺激されて気持ちが昂ぶってくるでしょう。


そういう経験は、すべて移動することで生まれます。年をとったら家の中で静かに暮らすのが安心、庭いじりや近所の散歩を楽しむだけで十分と考える人は多いと思いますが、逆です。

感情を刺激して気分を若返らせ、70年かけて手に入れた自由を喜べる高齢者こそ、「死ぬのも楽しみ」という境地を味わえるのだと私は思っています。



「死は人生最後の大移動」という考え方


私自身は死を意識の消滅と考えていますから、死後の世界も信じていません。

けれども、「ない」とも言い切れません。これは誰でも同じで、死んでしまえばもう生き返らないのですから死後の世界を語れる人はいないし、生きている限り誰も死後の世界を体験できないのです。

でも、通り抜ける「中間点」という考え方をすると、これは大移動だなと気がつきます。


人間は最後の最後で、生の世界から死後の世界へと大移動します。しかも、この大移動は誰も避けたり拒んだりすることはできません。

いつ出発するか、それもわかりません。

自分でスケジュールを決めることができないのです。

そして、戻ってくることもできません。

そういう考え方をしていくと、ずいぶんスケールの大きな移動だと気がつきます。





最後の大移動のためのトレーニング


その大移動が人生の最後に用意されているとしたら、人間は誰でも大きな自由を手にすることができると考えることもできます。死が自由というのではありません。大きな移動の自由が残されているということです。

生きている間の移動、旅も外食も人と会うこともすべて、最後の大移動のためのトレーニングと考えることはできないでしょうか。

移動を面倒がり、「何かあったらどうしよう」とか「無理したら身体に障る」「食べ慣れたものが安心」と家に閉じこもるのは、長生きに執着しているだけかもしれません。

それによって感情の老化が進めば、たとえ長く生きることができても喜びのない老いを過ごすだけになります。

トレーニング不足のまま老いていくのは、死を恐れるだけの毎日になります。

それくらいならむしろ、小さな移動を繰り返して自由を楽しんだほうが、最後の大移動を楽しみに待てそうな気がします。

「まだひとつ、大きな旅行が残っていたな」と気がつけば、「死ぬのも楽しみ」という境地が生まれてくるような気がします。








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